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ー舞台
ー椅子、白い紙をはった板、段ボール箱。
ー客電だけがついていて、舞台は薄暗い。

ー(杉山さんが出てきて、CTTの説明をする。〜5:20)

ー暗転
ー上手より光。ダンボールを持ち、懐中電灯を持ち、立っている。

カメラをつける。目がいっぱいだ。視覚の霊たち。

ーまわりを照らし、ダンボール箱のある所で、持っていたダンボール箱を下ろし、座る。

これから始める30分、きっかり計っておこう。

ーダンボールを開け、中の物を取り出す。

もしも30分たったら、教えて下さい。…でもあたしも、キッチンタイマーを、持って来たけど。

ーキッチンタイマーを30分にセットする。

雨の音がする。大雨。

チクタクチクタク気になるから、この中に、隠しておこう。

ーテープの音。ダンボール箱をひっくり返し、台のようにする。
ー懐中電灯で、白い紙をはった板を照らす。

スクリーン…壁。…白い。…
カメラをつける、目がいっぱいだ。視覚の霊たち。

…窓ガラス。…私が映ってる。
目をこらさないと中まで見えない。
よく見ないと中まで見えない。
…私が映ってる。
目をこらしてったら…

ー懐中電灯を消す。暗闇。

明るくして下さい。

ー明転。
ー椅子、白い紙をはった板、机のようにしてあるダンボール、役者はそこにいる。その周りに紙、ペットボトル、ビニール袋など。手前に最初からあったダンボール。

今もう何分たっただろう。
ー持っていた懐中電灯を置く。
2014年か。2014年やからもう、二年たってしまった。その間にあたしが思っていることも…、変わってしまったし、…もうギリギリかもしれない。今、もう、言うことはないかもしれない。2012年の夏にはあったあの衝撃は、もう。この二年間の間で、だんだん懐柔されていった。わたしのお父さんとおばあちゃんはもう大丈夫だと思う!もう大丈夫だと思う。
…でも、言わなくちゃくちゃならない。当事者になる前に。その時になる前に。今の生活でなくったって…。
私は今、…京都府で暮らしています。私の物は全部そこに運び込んである。全部じゃないけど。家の中にもちょっとはあるけど。でもこんなに寿命が延びるなんて!思わなかった。もっと早いと思っていた。早くなくなると思っていた。でも、もう八年も寿命が延びた。…でも、これから先はどうなるかわからない。本当に長く、それこそお父さんが80歳くらいになるまで、
ーテープをはがし、ぐちゃぐちゃにまるめて捨てる。
残っているかもしれない。
ー丸めた紙の束を手に持ちながら
でも、…そこまでは残っていないと思う。

ー紙を束ねてあった輪ゴムをとる。ビニール袋から何かを取り出す。
セロハンテープでいっか。

ー白い紙をはった板のところへ、A3に拡大カラーコピーした写真をはる。ランドセルの少女。
ー椅子のところへ行き、座る。その写真を見ている。

こっちを見ている。まなちゃーん?…友だちか。
赤い服。ランドセル。おかっぱの少女。

この写真に写っているのは、…私だ。
でも私は、…この写真を、自分だと認識できなかった。私だと思えなかった。
私はこんな顔をしていたっけ。私はこんな表情をする、…人間だったっけ。…

玄関の表戸だ。ガラス、植物。ジャンパースカート。
これはきっと小学校一年生の時だ。
だんだんと記憶が蘇ってくる。
学校に入った、ランドセル、しかしこの時もう私は暮らしてはいなかった。私は舞鶴にいた。タイトルである「シオガマ」は、お父さんが生まれたところ。「シオガマ」なんて言葉、この歳のになるまで聞いたことがなかった。漢字もわからなかった。だからカタカナだ。

実を言うと、私がシオガマより大切なのは、舞鶴なのだ。私は舞鶴のほうが大事だ。
ーガタンと、行きかけて止まり
でも、今日も見れない。二年前、…三年前、二年前。十五年ぶりに舞鶴に行ったけど、その時撮った写真は、現像したけど、見ることができない。

ー椅子を離れ、写真の前を通り、台のほうにある布袋を持つ。
実はすごい、写真を映そうと思っていたんですよね。でも…ちょっと問題があって。
ー布袋からカメラの封筒を取り出し、袋を捨てる。
大事な写真は持って来れなかった。古いアルバムにはってある、大事な写真は持って来れない。破損するから。
これは、あげてもいい。
ーばさりと、持った一つの封筒が落ち、写真が広がる。
かわいそう。
ー写真の一枚を見せ
古いアルバムが入っていた写真。
ー自分も見て、また観客へ見せ、
この写真が、なんで大事じゃないかって言ったら、iPod touchで撮った写真だからだ。データで…、パソコンの中にある。
ーまた自分で見る。
でも…、撮っておきたかったんだなあ…。

ー封筒を落とし、写真の束を手に持つ。その中の一枚をまた見せ、
写真を写真で撮った写真。ぼやけている。
ー一枚をとり、
これは、お葬式の写真。「葬儀用」というアルバムがあって、そこにはってあった。
ーまた自分で見る。
葬儀用というアルバム、そのアルバムの中に、
ー写真の束に戻し、
実家が、改築してできた時の、落成式で、沢山の人が集まっている写真と、同じページに、
ーまた見せて
この葬儀の写真がはってあった。
ー戻し、また一枚の写真を見せ、
沢山の人がお参りに来ている。
ー写真を替え、
落成式の時の、大きいじいちゃん。白い。侍みたいな、着物を着て、
ー自分でも見ながら見せている
その時に集まって来てくれた人たちが、今度は、
ぼやけている。
どんどん、写真が、
ー奥のほうを指さし、
おっきい、ちっちゃいか、遺影だから。小さい写真が真ん中にあって、アーチ状に、果物やお花が並べられていて、皆がどんどんやって来る。
ー振り返り、
お父さんが抱えられている。

ー座り、二枚目の写真をはる。
ー水をのむ。
ーまた椅子に座り、見る。
四角い枠縁で、おじいちゃんが、写真に写ってるはずなんだけど、暗くってよくわかんないな…。
(笑)、坊主頭の人、髪の毛、皆…後ろ姿で、後ろの後頭部ばっかり写ってる。
で、…(笑)、昨日見つけた、左側の、後ろ、下のほうに、すごく現代的な服を着て、黄色いっぽい感じの、女の人がいると思ったけど。絶対そんなはずはないんだけど。羽衣みたい。誰なんだろうな。
そうか。柱か。あれよく見たら柱だったんだな。柱だった。家の、柱。部屋、の、ふすまを開け放して。仏間と、仏間の隣の、お正月におせちとかを食べる部屋。そっちのほうまで人がずーっとなだれこんで、縁側のほうにまで溢れだしていて、門の前には、大きなお花が飾ってあって、同じめのお花。道の両脇に、大きなお花が並べられていて、ずっと続いている。道、ずっと続いてる。

ー椅子を離れ、台のほうに行き、
現像。
ー写真を片付け、置く。
記憶に残したい。

ー台の上に紙を広げ、テキストを手に持ち、読む。(20:00〜22:44)
ロッカバイ。
うちに戻った、とうとううちに戻った、そして自分に向かってひとりごと、他に誰もいやしないもの。もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、ほっつき歩くのは。もうそろそろ入って座ってもいいころよ、窓辺に、じっと窓辺に、よその窓を見つめて、そこでとうとう長い一日の終わり、とうとう入って座った、うちに戻って座った、窓辺に、ブラインドを上げて座った、じっと窓辺に、一つだけの窓、よその窓を見つめて、よそのやはり一つだけの窓を、目をかっと見開いて、あっちやこっち、色んなところ、他人を探して、窓辺に座っている、自分に似た、ほんの少し似た他人を、もう一人の人間を、窓辺に座って、自分と同じようにうちに入って、とうとう長い一日の終わり、自分に向かってひとりごと、他に誰もいやしないもの。もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、ほっつき歩くのは。もうそろそろ入って座ってもいいころよ、窓辺に。じっと窓辺に、一つだけの窓を、それぞれの窓を見つめながら、よそのやはり一つだけの窓を、目をかっと見開いて、あっちやこっち、他人を探して、自分に似た、ほんの少し似た他人を、別の人間を、もう一人の人間を、人間を人間を人間を人間を人間を人間を人間を人間を人間を。もっと。
そしてとうとうある日のこと、ついにとうとう、長い一日の終わり、窓辺に座って、じっと窓辺に、一つだけの窓、よその窓を見つめて、やはり、よその一つだけの窓を、
どこの窓も日除けが降りていて、上がっている日除けは一つもなくて、彼女のだけが上がっていて、そしてとうとう、とうとう歩く、長い一日の終わり、窓辺に座って、じっと窓辺に、目をカッと見開いて、あっちやこっち、色んなところ、上がっている日除けを探して、一つでも上がっている日除けはないものかと、一つもない、窓ガラスの顔などどうでもいい、自分の顔に似た、浮いた目を、見ようとして、見られようとして、上がっている日除けを、ほんの少し似た、自分に似た、上がっている日除けはもうない、あれば、誰かそこにいた、窓ガラスの向こうに、別の人間、もう一人の人間が、
そしてとうとう、とうとう、長い一日の終わり、彼女は言った、自分に向かってひとりごと、他に誰もいやしないもの。
もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ。
窓辺に座って、じっと窓辺に、一つだけの窓、よその窓を見つめて、よそのやはり一つだけの窓を、目をかっと見開いて、あっちやこっち、色んなところ、もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、もうそろそろやめていいころよ、

どうやって終わりにしよう。どうやって終わりにしよう。どうやって終わりにしよう。どうやって終わりにしよう。私はやってみるつもりなのだ。

ーと、机を引き寄せる。筆記具を持ち、…観客のほうを見わたして、
カメラをつける。目がいっぱいだ。視覚の霊たち。

記録したいという思い。

ー紙をめくり、見て、
ーまた観客のほうを見て、
誰が見るんだろう。
YouTubeに、アップ、して?
誰が見るんだろう。
見る甲斐のある、見る甲斐のない、…私のために。どんどん文章がたまっていく。どんどん、どんどん、保存されていく。どっかのすみにやってしまった、…文章も、…保存されていく。
でもどうやって。…誰が見るんだろう。後で見るのかしら。私はなんでこんなことを言わなくちゃならないのか。
ーいつのまにか白い板の写真を見ながら、
私は、なくなるかもしれない、実家には、…いなかった、そんなにいなかった。
ーだんだん違うところを見だして
私が見た美しい景色は、舞鶴のものだった。幼稚園の3歳から、3歳か4歳から、小学校二年生くらいまで、舞鶴にいた。美しい景色、水辺、ボーっとしていた。幸せだった。強い光。
実家に戻ってからは、人の目を気にするようになった。
ーまた写真を見て、いつの間にかまた別のところを見て
でもこの写真に写っているのは実家…。でもそうか、舞鶴に、いて…、戻ってきてたんだ。
実家に戻って…、実家は暗かった。実家の長い廊下、暗い廊下、囲われてる、部屋を囲んでいる、長い廊下があって、で、廊下のカーテンを閉めるのが私の仕事だった。暗い部屋を。

ー暗い奥を指さし、
あっちから、もう奥のほうはすっごく暗くて、使ってない古いトイレがあって、とても怖かった。仏間もあったし。で、怖いからすごく、たたたたた、たたたたた、たたたたた、と走っていくと、カーテンのレールからカーテンがとれて、よくそれで怒られた。とても嫌だった。

ーいつしか別のところを見て
でも…、夏の家、夏の家。台所を開け放していて、夏で、弟のたっちゃんがジェンガをしていて、私に向かって笑っている写真がある。
それを見ると、夏の光、夏の家、冬のストーブ。あの家もやっぱり幸せだったんだと思う。
私の物は、私の部屋は二階にあった。私の部屋は二階にあった。でも、もう…、使ってない。私の生活のための道具は、全部、京都の、家に、持って来た。私の物はない。こないだ帰ってみたら、…すっかすかだった。タンスの中もすっかすか。

余ってる文庫本を、入れた。

お父さんのも…、まっちゃんのも。

ーはった写真を見て、
大きいじいちゃんは、私のことを、知らないんだよな。
大きいじいちゃんは、私が生まれる、すごく前に死んだから、
私のことを、家族だなんて、知る由もなかった。知らなかったんだろう。…
もっと言えば、お父さんしか、家族と思っていなかった。でしょ?
だってさ、おばちゃんも、おっちゃんも、たぶん…おばちゃんはいたのかな?おっちゃんは、でも…、死んだん、…でしょ?
死んだ後に生まれたんでしょ?だから知らなかったんでしょ?私のこと家族だって思ってなかったんでしょ?

…私も、…
大きいじいちゃんの前の家族は、…知らないよ。
家族だって、わからない。
この家。…この家ってさ、…私の家って言ってたけど、…まあ、私が住む前は、…お父さんやまっちゃんおっちゃんとかが住んでたわけだから、…
部屋の内装も…、変わってるんだよね?
最近寄付したら?って言われるんだよね。
私も寄付されたらいいなあって思うよ。固定資産税。…

ーうつむいて、
…昨日、5000円もらったけど、すごく、財布にしまいづらくって、持ってたら、どっかに落としてしまったみたいで、…で、生のままの5000円札だから、…絶対もう誰のものかわからなくなってると思って…
昨日雨が降ったから、きっと、ぐちゃぐちゃ。
ー前を向いて
でも届けてほしいな、届けてほしい。

2012年の夏…

暗くして下さい。

ー暗転

ー懐中電灯をつける。舞台を照らす。

春の うららの すみだ川 上り下りの 船人は
愛の しずくも 花と散る
ながめを 何に たとうべき

ー板を照らし、
音楽が聞こえてくるようになった。私の家に音楽が聞こえてくるようになった。昔は音楽なんて聞こえなかったのに。
色んな人が入るようになった。出入りするように。あれ何だろう?

ー懐中電灯で照らしていく。
雨やんだなあ。

ー自分の顔を照らして
…そう。音楽が鳴るようになった。
2012年の夏に、旅行から帰ってきて実家に寄ったら、声楽の人がやって来てて、歌を歌ってて、音楽が鳴るようになった。仏間の隣の、…机にいても、居間にいても、…

春の うららの すみだ川
上り 下りの 船人は 
愛の しずくも 花と 散る
眺めを 何に たとおべき

お嬢さんがやって来るようになった。お父さんは運転手になった。バイト。病院の、お花を植える、ボランティア。

お父さんは報酬をもらって来る。焼き肉の残りをもらって来る。
残り、なんて言うけど、…そんな、みじめなもんじゃ、…ないんですよ。…

おじょうさんがやって来て、2012年の夏に、ちゃぶ台で、弟とごはんを食べていたら、お嬢さんがやって来て、
「あら、かわいい」って。「かわいい」って。…「かわいい」って。……言って下さった。…

ー懐中電灯を、より顔に照らし
知らない人が、通るようになった。私はまだその現場に、居合わせたことはないけれど、私の裏口から表口まで、
昔一回泥棒が入ったことがあった。その泥棒なら通ったこともあるかもしれないけれど。
言い過ぎた。ごめんなさい。
通ってもらわないとやっていけないの。通ってもらわないとやっていけない。
そして私がなぜこんなに家に思い入れを持っているのかも、わからない。
べつに、楽しい思い出は舞鶴のほうにあったはずだし、もちろん実家に楽しい思い出がなかったとは言えないけれど、…それなりに好き。
それなりというか、本当に好きだけど…、でも私は京都府で暮らしている。私の生活は京都にある。だから…

ー横を向き、なおる
なんでこんなに実家に思い入れを持ってるのか、わからない。でも、なくなってしまったら…、実家にある、…家具とか…、ザルとかさあ。…どうなるの。
置いていけないから。そんなに持って行けないので。保存したくなるんだろうなあ…。

明るくして下さい。

ー明転
ーキッチンタイマーを見る。

良かったあ…

ー観客を見て、
あと3分で終わるみたい。

ー服を手にとり
これは、夏に、帰った時に、着る服がなくって、おばあちゃんに借りて、そのままもらった。
ー服を見せる
ハワイのTシャツ(笑)。
ー袋、服を見、
これは私の靴下で、昨日はいてた、
ー服をとり、見せる。
で、これが、おばあちゃんが、くれた、スカート。
ーにおいをかぐ。
すごいな、何回も洗濯したけど、結構、芳香剤というか、虫食い剤のにおいが、残っている。うん。
ー服を脇にやる。
ー写真を見て、観客へ出し、
喜び。(祖母の、喜びと書いた書き初めの写真)
ー写真を見て、
これあの…、私に、甥、甥っ子が生まれてるんですけど、…その時あの、水で書いて、乾くと消えるっていう教材があって、それで皆で書いた。
ーまた別の写真を見て
どこいったんだろうなあ。

ーテキストをみたり、紙をとったり、ペンを置いたり、立ち上がる。
そうか。最後に思ってたことをしよう。

ー始めからあったダンボール箱のところへ行く。
ーダンボールを開け、閉じる。
ー観客を見て
私は言わなくてはいけなかった。当事者になる前に。その時になる前に。
今その気持ちはなくっても。今考えられなくっても。でも何か情報を言わなくちゃならなかった。…

ージリリリリ、とキッチンタイマーが鳴る。
ーバッと、止めにかかる。

30分たってしまった。だけどもう少し。
ーダンボールを開けながら
暗くして下さい。

ー暗転
ー何かしている。
あ、1分前なんだね。

家族写真。……
私はこれを投影したかったんだ。
iPod touchで撮った、写真を写真で撮った写真でも、こうやって投影してみると……

もう、時間がないから、降りてきても、どうぞ、って言えないのが、苦しいな。
べつに(ななじゅうにとる38:16)必要もないんだ。

これがあたしの家族だ。
この写真は、


終わります。
明転。

ー明転

ありがとうございました。

 

ー片付ける。

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